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執筆者の写真SCGR運営事務局

【#5】日銀利上げ~政治経済情報をわかりやすく解説


年毎のCPI(2022から2023年にピーク)


金利のある世界のコンセンサスはどこに?


経済部 シニアエコノミスト



日本銀行は7月31日の金融政策決定会合で、政策金利(無担保コール翌日物金利)を0.25%程度へ引き上げることを決定しました。3月にマイナス金利政策、イールドカーブ・コントロールを廃止して、短期金利を▲0.1%からゼロ~0.1%程度へ引き上げてから、2回目の利上げとなりました。

 

それを受けて、大手行の普通預金金利が7月31日に年0.02%から年0.1%へ、5倍引き上げられることが発表されました(9月2日から適用)。3月のマイナス金利とイールドカーブ・コントロールの廃止に伴い、普通預金金利は年0.001%から年0.02%へ20倍になっていたので、それと合わせると、約半年で100倍になる計算です。先々の住宅ローン金利など支払金利の増加が懸念される一方で、受取金利の増加も期待されます。経済全体でみれば、利上げなので、景気に負担がかかることになります。しかし、利上げといっても小幅なので、そこまで大きな負担にはならないとみられます。実際、世界を見渡せば、これ以上に大きなショックが数多くあります。

 

ただし、金融市場では大きく反応しました。例えば、対ドルの円相場が7月30日夕の1ドル=154円90銭前後から31日には149円台後半へと、5円超も円高・ドル安方向に振れました。7月上旬に161円台だったことを踏まえると、1か月間で12円ほど円高・ドル安方向に修正されたことになります。

 

もちろん、この背景には中東情勢のさらなる緊迫化などほかの要因もあったものの、日米の金融政策の方向感の相違が鮮明になったことが注目されます。米連邦準備理事会(FRB)は7月31日に政策金利の据え置きを決定し、9月の会合では利下げが開始される公算が大きくなっています。それに対して、日銀は追加利上げを決定した上、今後の利上げも示唆しました。つまり、「利上げの日銀、利下げに転じるFRB」という構図から、日米金利差が縮小するという見通しが強まったと言えます。

 

ただし、日米金利差の縮小といっても、現在視野に入っている縮小幅はそれほど大きくありません。日銀の利上げは0.25%程度、市場が予想する年内の追加利上げも同程度とみられ、合計で0.5%程度になる見通しです。その一方で、FRBが9月に利下げを開始するとしても、その利下げ幅は0.25%とみられています。市場が予想する年内2回の利下げでも、合計の利下げ幅は0.5%です。年内3回利下げでも0.75%です。つまり、日米金利差は年内に1%程度縮小する見通しになります。米国の5.25~5.50%と日本のゼロ~0.1%程度の5%超あった日米金利差がたとえ1%程度縮小しても、4%程度は残る計算です。

 

むしろ、2025年以降に、どのようになるのかが見えていないことが懸念されます。FOMC参加者の経済見通し(2024年6月時点)によると、政策金利は長期的には2.8%になると予想されています。仮にそうであれば、足元から1.5%分の利下げが実施されることになります。政策金利が2.8%ならば、名目長期金利はそれよりも高い水準にとどまると想定されます。

 

一方で、日本の政策金利はどこまで上昇するのでしょうか。リーマン・ショック前後には0.5%という水準でした。植田日銀総裁は、0.5%が壁になる訳ではないという認識を示しており、状況によってはさらに引き上げられる可能性があります。

 

自然利子率に近似される潜在成長率がゼロ%台半ばから1%程度とみられているため、それに2%程度の期待インフレ率を上乗せすれば、名目長期金利は2%台半ば程度になります。しかし、これまでの状況を踏まえれば、そこまで到達するとも想像しがたい状況です。

 

つまり、2025年以降、日本の金利は米国よりも低いこと、日米金利差がさら縮小することが予想されるものの、その差がどの程度まで縮小するのかが現状では見通せていません。米金利がコロナ禍前のような低金利に戻るとは、メインシナリオで想定されていません。日本の金利もコロナ前の水準には戻るとは予想されていません。利上げの日本、利下げの米国という新たな局面で、世の中のコンセンサスが定まるまで、もう少し時間がかかると考えられ、そうした先行きの読めなさが金融市場の変動を過度に大きくするリスクになり得るため、警戒感を拭い切れません。





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