世界経済はいつも先行き不透明
経済部 シニアエコノミスト
IMFは7月16日、『世界経済見通し(World Economic Outlook)』を公表しました。4月と10月が主要な見通しで、その間の7月と1月は更新版という位置づけです。
それによると、世界経済は2024年に+3.2%、2025年に+3.3%で成長すると予想されています。前回4月時点に比べて、2024年は据え置き、2025年は+0.1ptと小幅上方修正にとどまり、見通しの体勢には大きな変化がありませんでした。
2020年以降の世界経済成長率を振り返ると、コロナ禍の2020年(▲2.7%)から2021年に+6.5%へと反発した後、2022年(+3.5%)、2023年(+3.3%)、2024年(+3.2%)と3年連続で小幅に減速する姿が想定されています。2025年には+3.3%とやや加速するものの、2000~2019年平均(+3.8%)、2010~2019年平均(+3.7%)には届かないと予想されています。つまり、コロナ禍を境に、世界経済の成長ペースが鈍化したように見えます。
また、2029年までの予測が含まれている『世界経済見通し』(4月時点)によると、世界経済成長率の2025~2029年平均は+3.1%と予想されていました。足元から世界経済の成長ペースがもう一段低下する姿が描かれています。
もちろん、コロナ禍前から、先進国では高い成長率が期待しにくい上、世界第2位の経済大国になった中国でも、成長ペースの減速が予想されていました。そのため、ある意味、経済成長率が低下する世界は予想されていたもの、とも言えます。
その一方で、想定以上に世界経済の成長率が下振れしているという面も否定できません。事実、コロナ禍前には想定されていなかった歴史的な物価高騰と、それを抑制するための金融引き締めが経済成長の重石になってきました。米国で金融引き締めが実施されると、他国・地域の通貨安圧力が高まるので、他国・地域も金利を引き上げる傾向にありました。しかし、自国・地域の景気・物価と金融政策の整合性をとることが難しくなり、結果的に経済成長率に下押し圧力がかかった一面もあります。
また、コロナ禍からの回復過程で、デジタル化とグリーン化が成長源というコンセンサスが形成されたものの、それがかえってさらなる物価高を招く恐れがあります。コロナ禍や物価高騰という生活苦から、これまで政治を主導してきた政党の支持率も低下しており、右派や左派の台頭や政権交代なども見られます。デジタル化やグリーン化が重要であることには変わりはないものの、その重要度・優先順位が低下し、世界経済の成長源でなくなりつつあります。
これまで世界経済は1990年台のITブーム、2000年台にはBRICSに代表される新興国の経済成長など、成長フロンティアを探してきました。そこに投資して、成長の果実を得るためです。もちろん、経済成長率といっても、国や地域によって異なります。また、同じ国でも、都市圏・地域、産業によって成長率は異なります。そのため、より高い成長が見込めるところに注力することが重要でした。
足元では、生成AI・半導体分野の成長が目覚ましいものの、それのみでは世界経済のけん引役として力不足に見えます。それらを活用して、新しい製品・サービスを生み出し、新しい産業に育てた結果、経済が成長していく姿が必ずしも想像しにくいからかもしれません。
そのため、新たな成長フロンティアを見つけ出すまで、世界経済の見通しは不透明なままかもしれません。特に、ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化など、地政学的なリスクが顕在化していることも、先行き不透感を強めています。そうしたリスクが顕在化したときには、財政政策などによる支援策も求められます。しかし、金利が上昇している中では、債務負担もこれまで以上に考慮しなければならず、財政を大盤振る舞いすることは難しい状況です。
過去を振り返れば、物価高騰や高金利、地政学リスクなどの課題はどの時代も山積していました。ただし、今と違うのは、かつては経済成長がそれらの問題点を包み隠して、痛みを緩和していたことです。現在は高い経済成長率を期待できないため、きめ細かい対応が必要になります。低成長時代の経済のあり方を模索して、新たな成長源を見い出すまで、世界経済では先行き不透明感が強い状態が続きそうです。
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