
経済部 シニアエコノミスト
IMFの「世界経済見通し」(2024年10月)によると、2025年の世界経済成長率は+3.2%と予想されています。コロナ禍前までの2000~2019年平均、2010~2019年平均のいずれも+3.7%なので、それよりも低い成長になるという見通しです。
2000年以降で初めて、世界経済成長率が長期平均の+3.7%を下回ったのは、2001年(+2.5%)でした。当時はITバブルの崩壊があり、それが世界経済の成長に下押し圧力をかけました。次に成長率が長期平均%を下回ったのは、2008年(+2.9%)と2009年(▲0.4%)でした。世界同時不況ともいわれる金融危機になった時期です。2009年には世界経済がマイナス成長に陥るほど大きな出来事でした。
その後、2012~2016年も、3%台前半の成長率であったものの、長期平均を下回りました。欧州債務危機が発生し、2000年代に成長期待を集めたBRICSが次々と成長率を鈍化させ、それぞれ経済の問題をあらわにしていた時期です。しかし、2017年になると、+3.8%まで成長率は回復、「ゴルディロックス」と呼ばれるような状態になりました。主要先進国で非伝統的な金融緩和が実施され、世界経済は一息つきました。ところが、一息ついた中で貿易戦争など激しくなり、2019年になると+2.9%まで成長率は減速しました。2020年には、新型コロナウイルスの感染が世界中に広がり、感染対策から経済活動を抑制したため、世界経済の成長率は▲2.7%と、2009年以来のマイナスに沈みました。2021年には経済活動が再開するにつれて、前年の反動もあって+6.6%と高い成長率を記録したものの、その後の回復ペースは長期平均を下回る鈍いものでした。
2024年の世界経済成長率は+3.2%、2025年も+3.2%と横ばいになると予想されています。2023~2026年の4年間が+3.2~+3.3%とほぼ成長ペースが同じであり、長期平均を下回ります。しかも、IMFが予想を発表している2029年までそれを上回ることはありません。つまり、世界経済の成長率は、一段と鈍化することが世界のコンセンサスと言えます。
世界経済の成長ペースは、大枠の景気動向などを把握する上で役立ちます。そのため、これまでの10年、20年とは成長ペースが鈍化した世界が、これからの前提条件になると考えられます。その一方で、ビジネスという視点では、国・地域の成長率ではおおまかすぎるという一面もあります。国の中の首都圏などの地域圏や大都市などの視点で見ていくことも重要です。インフラや所得環境、消費者の嗜好など様々な面で、日本国内でも地域差があるため、きめ細かく状況を把握することも欠かせないからです。
また、成長しているといっても、例えば、原油などエネルギーの産出・輸出が増えて、成長率が高まっただけでは、心許ない面があります。そうして生み出された付加価値が、その国の企業の利益となり、人々の賃金として配分されているのか、そしてそれらがその国内の設備投資や消費に回るのか、一部は貯蓄されて、それが国内で資金を必要とする人に貸し出されているかなど、資金が国内で循環する仕組みがあるのか、なども重要な視点です。また、ビジネスによって獲得した収益を国外に送金できるかなども重要で、実務上不可欠です。
つまり、ビジネスの視点から考えると、もちろん少なからずビジネスリスクや為替リスクなどもあるため、全体の成長率プラスアルファの収益性を見越すことが求められます。ヒト、モノ、カネ、情報が円滑に動いてビジネスを持続的に行っていく中で、一定の収益を確保できる見通しが立つのか否かが重要な点になります。世界経済の成長率が今後も高まらないという前提に立つと、これらの点についても、より厳しい目で精査していくことがますます重要になっていると考えられます。