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【#24】2025年の注目点:⑤正月太りしたら関税

執筆者の写真: SCGR運営事務局SCGR運営事務局

MIRAL LAB PALETTE × SCGR企画 SC Kaleidoscopeでの様子
2025年の注目点


経済部 シニアエコノミスト



弊社内の人から「正月太りしたら関税くらいのつもりで気を付けつつ……」というメールを年末にもらいました。関税をかけられる前に、先払いをしておいた方がよいのか……と考えながらも、第1期トランプ政権では、関税がディールの材料として使われていたことを改めて思い出しました。自分の担当部分を早めに書きます、というディールで支払いを回避できるかもしれません。

 

第2期トランプ政権発足前に、すでにカナダやメキシコは25%の追加関税、中国は10%の追加関税が取り沙汰されています。関税率の引き上げは、輸入物価を上昇させ、それに伴って輸入需要を減退させる方向に作用します。また、輸入物価の上昇を通じて、最終的には消費者物価に上昇圧力をかけると予想されます。もちろん、輸入需要を減退させる方向に作用するのであって、実際にどの程度減退するのかは分かりません。普通に考えれば、企業は関税が低いうちに前倒しで輸入して、関税率が高くなったら、代替先から調達したり、創意工夫を凝らして(生産性を高めて)コスト高の影響を緩和させたりします。

 

また、輸入原材料の価格が上昇しても、その一部は生産プロセスにおいて吸収されるので、すべてがそのまま転嫁されるわけではありません。米連邦準備理事会(FRB)の「地区連銀経済報告(ベージュブック)」でも消費者は値上げに敏感になっているとたびたび報告されており、コロナ禍直後のように価格転嫁が円滑に進む訳ではなさそうです。しかし、実際に影響が波及する時間差や程度の差こそあれ、関税率の引き上げに伴う影響があるので、輸入需要に下押し圧力が、また消費者物価に押し上げ圧力がかかると予想されます。

 

カナダやメキシコ、中国に加えて、他の国に対しても、関税が引き上げられる可能性があります。それらは結果的に、物流の動きを鈍くするため、世界経済の成長に下押し圧力をかけると懸念されています。実際に、どのタイミングでどこの国・地域を対象に、どの程度引き上げられるのかによって、影響が異なります。また、トランプ次期大統領に対して、何らかのお土産(ディール)を渡せば、関税引き上げを回避できる可能性もあります。よくわからない世界、先行きが不透明な世界に2025年がなることは間違いなさそうです。

 

一方で、デジタル化やグリーン化などの課題は、その進捗ペースは従来の想定とは異なるものの、取り組まなければならない点に変わりはありません。そこに、経済安全保障など供給網を見直す動きも絡んできて、より複雑化しています。日本は米国の同盟国であっても、米国ではないため、相応の扱いを受けることが明らかになったものの、それでもこれまでに比べれば、日本は有利な状況になる一面があります。

 

これまでのルールが変わるのならば、それに適応していくことも重要です。自国・自地域・自社の既得権益が損なわれるということは、他国・他地域・他社にとっては成長の機会として受け止められる可能性があります。いわゆる漁夫の利です。

 

リスクには、チャンスという顔もあります。ただし、必ずしも優しい顔をしていないので、その顔色を窺いながら、適時に対応していく必要があります。ある意味、FRBの政策金利の決定のように、入手するデータ、展開する見通し、リスクバランスを注意深く評価することが重要です。ただし、そのようなFRBの柔軟な対応によって、経済・物価指標が発表されるたびに、かえって金融市場の変動を大きくしてしまうという副作用もありました。そうしたことを踏まえると、トランプ政権の政策を巡って、柔軟性をもって適時判断するということも、なかなか難しい作業になりそうです。そのため、柔軟さとともにしっかりとした計画を事前に立てておくことが重要だと考えられます。

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