
経済部 シニアエコノミスト
世界を見渡すと、米国の政治情勢をはじめとして、相変わらず不確実なことが多く、先行きも不透明なことばかりです。そうした中で、ドイツ経済の状況が気がかりです。
「ドイツのGDPが日本を超えた!」と2024年にニュースになりました。これには為替相場が大きく影響しているので、例えば1ドル=120円台まで円高・ドル安が進んだら、「日本のGDPが世界第3位に復帰した!」と大きなニュースになるのかと思いつつ、ドイツ経済の状況を見守ってきました。ドイツ経済の2024年の成長率はマイナスになると予想されており、その通りになれば、2023年に続いて2年連続でのマイナスになります。この不調さは2002~03年以来のことであり、当時、「欧州の病人」とも言われていたほどでした。
ドイツ経済に直撃する世界金融危機やコロナ禍などのような大きなショックがない中での2年連続のマイナス成長は、大きな痛手です。もちろん、ロシアのウクライナ侵攻の影響が直撃したとも言えます。ロシア産ガスの供給を減らしたことで、代替のLNGなどを割高で確保せざるを得なくなりました。また、ドイツと言ったら、自動車産業というほど、経済をけん引していた産業が低迷していることも挙げられます。2010年代のディーゼル不正問題の発覚をきっかけに、ディーゼルから電気自動車(EV)シフトをしてきた一方で、そのEVの競争では中国勢に劣後してしまったという厳しい状況にあります。
ドイツの鉱工業生産指数をコロナ禍の急激な落ち込みとそこからの反動を除いて分析すると、コロナ禍前の2010年代後半にピークを迎えて、そこから緩やかに生産水準を落としてきたことがわかります。つまり、足元の不調は、景気循環の中での不況という側面とともに、構造変化が生じている可能性があります。
構造変化という側面からドイツ経済を見ると、経済安全保障の観点から生産体制を個別に管理することを目指して、対中国の投資を増やしているというニュースもありました。その一方で、VW社のように国内生産体制の見直し、それに関連するストライキもありました。これらの出来事は、外部環境や市場に合わせて、国内外の生産体制を見直している途中であることを示しているとも言えます。こうした危機をうまく乗り切ることができれば、再び成長ペースが加速する可能性があります。
変化には少なからず痛みが伴うので、変化への対応は難しい一面があります。しかも、2022年の物価高騰の痛みがまだドイツ経済には残っています。雇用環境が比較的堅調であることが救いであるものの、物価高騰に伴って低下した実質賃金は、まだ回復の途中です。しかし、今後、工場閉鎖などが広がれば、頼みの綱の雇用環境が悪化してしまう恐れもあります。
ショルツ政権が議会で不信任となり、解散総選挙となったことも、こうした日常生活の厳しさが根底にあるとも言えます。経済が厳しい現状だからこそ、政治がその苦境を救ってほしいところですが、それもなかなか難しいところです。政府の景気刺激策の決定には時間がかかる上、ドイツでは財政規律を堅持する方針があります。コロナ禍など、緊急事態には、債務ブレーキは一時的な棚上げとなるものの、足元がそうなのか否かの判断で、ショルツ連立政権が崩壊したことが判断の難しさを示しています。2025年2月の総選挙の結果、安定した政権が樹立されれば、懸念が一つ払拭されるので、選挙結果が注目されます。
米国や中国企業との競争激化、高いエネルギー価格、ロシアのウクライナ侵攻など先の見えない地政学リスクの高まりなど、ドイツ経済を巡る情勢には改善の兆しがまだ見えていません。2025年の成長率はプラスに戻るものの、それでも低成長にとどまると予想されています。ドイツ経済は、当面厳しい状況が続きそうです。ドイツ経済が不調なままユーロ圏経済が堅調に成長するという姿も想定できないため、ユーロ圏にとっても、厳しい年になりそうです。