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執筆者の写真SCGR運営事務局

【#17】今こそ、インバウンド!


熊野古道の写真
熊野古道(PennyによるPixabayからの画像)


戦略調査部 アナリスト



街ゆく訪日観光客の増加を肌で感じるようになりました。急拡大するインバウンド市場では、何が起きているのでしょうか。新たなビジネスチャンスには、どのようなものが考えられるでしょうか。

 


数字でみるインバウンド


インバウンドがニュースにならない日はないほど、最近、注目を浴びています。観光レジャーやビジネス出張を目的とした訪日外国人旅行であるインバウンドは2023年に2,500万人超となり、2024年は過去最高であった2019年の3,200万人を超えるペースで増えており、3,500万人に達すると予想されています。


また、インバウンド消費額も2023年に過去最高の 5.3 兆円を記録しました。円安の影響もあり、2024年上半期は3.9 兆円で、このペースが続けば、通年で8 兆円規模と、ドラッグストアや家電市場と同規模程度のイメージです。


そこで、拡大するインバウンド市場について、ビジネスの視点から新たなチャンスを考えてみたいと思いました。

 


インバウンド増加の背景 


そもそも、インバウンドがここまで拡大しているのはなぜなのでしょうか。1つ目として、政策面が挙げられます。2007年に観光立国推進法が成立し、観光庁が発足しました。インバウンドの目標値として、従来の訪日観光客数から消費額に重きが置かれ、ビザの緩和やLCC普及が進みました。現在、2025年に訪日観光客数4,000万人を目指しています。2023年には消費額5兆円、1人当たり訪外国人旅行消費額20万円の当初2025年目標値を上回り、達成されました。これを受けて、政府は今年1月に、2030年の訪日観光客数を6,000万人、消費額15兆円を目標に設定しました。


2つ目としては消費マインドの変化、すなわち、コロナ禍の反動に加えて、若者を中心とする「コト消費」への変化が挙げられます。以前は、旅行後にその情報を友達と交換・共有すること多かったのですが、現在は旅行の途中、いわゆる「タビナカ」の写真や動画を SNSを通じてリアルタイムで共有することが増えました。これが旅行者とつながっている他者の「タビマエ」(旅前)の認知に影響を与えるというサイクルが生まれています。タビナカの日本のリアルな情報を見た他者の旅行意欲が刺激されて、現地の生活や文化に関心を持つケースが増えています。訪日外国人向けのアンケートを見ても、日本食や日本酒の人気が高く、歴史や伝統文化の体験、例えば江戸切子のガラス細工や日常生活体験も注目を集めています。


もちろん、課題もあります。例えば、そもそもフライトの便数が足りない、空港や地方交通の未整備や不足、オーバーツーリズム、ゴミ問題、観光業の人手不足などが成長の足かせとなり、対策は欠かせません。



インバウンドのトレンド


1つ目のトレンドは、地方への分散化です。訪日外国人の訪問先別の消費額は、東京や大阪、京都など大都市圏で大きくなっています。しかし、最近は、東北や四国、中国などの増加も目立っています。2019年比で大きく消費額が増加したのが、山形、和歌山、高知、群馬、山口県です。例えば、山形の銀山温泉は SNSをきっかけにアジア圏からの観光客が増えたり、和歌山の熊野にはフランス人観光客が多く訪れたりしています。


訪日観光客の約半数が地方を訪問しています。欧米や豪州からの観光客は都市部と地方部の両方をめぐる「周遊観光型ルート」を選ぶ傾向がある一方で、アジア圏のリピーター層は「地方部だけ」を訪問するパターンが見られます。なお、この訪問ルートでは、空路の直行便があるか否かも関係しています。


 2つ目のトレンドは、上述の消費マインドの変化と同じ「コト消費」に含まれる娯楽サービスがあげられます。2023年の旅行消費額の5.3 兆円のうち、宿泊費は 35%、飲食は 23%、交通は12%、買い物は 27%を占めています。一方、消費額の5%を占める娯楽等サービス費は2,700億円と市場規模はまだ小さいものの、事業開発の余地は大きく、これから伸びる市場とみられます。


娯楽サービスの内訳を見ると、アジア圏系観光客はテーマパーク、欧米系は美術館や博物館など文化施設、豪州系はスノースキーリゾートへの支出が多いという特徴が見られます。また、1人あたりの娯楽サービス支出額が一番大きいのはテーマパークで、美術館・博物館、現地の観光ガイドなどが続きます。その他、ゴルフ場などスポーツ関係も成長しています。


魅力のあるコンテンツを開発できると、宿泊や飲食、交通など周辺の消費額も増加する構図になっていますので、娯楽サービスの成長はとても重要なファクターになっていくと思います。



注目のビジネスターゲットとは……


ビジネスチャンスを考える上でポイントとなるのは、例えば、富裕層市場です。ここでは高付加価値旅行市場と呼んでいます。ちなみに、高付加価値旅行とは、1回の訪日旅行で1人当たり消費額100万円以上の高付加価値旅行を指しています。


世界24か国の高付加価値旅行者市場は18兆円で、そのうち、日本市場は7,000億円です。このうち、最も消費額が大きいのは中国からの高付加価値旅行者で約3割を消費しています。


高付加価値旅行者の価値観が最近変化している点も注目されます。「ラグジュアリー」の定義は2種類あり、従来型の プライバシーやステータスを重視する50 代以上を対象とする「クラシックラグジュアリー」と、新型の30 代以下の「モダンラグジュアリー」が存在します。今や世界各地で過半数を占めるようになっている「モダンラグジュアリー」層は、「コト消費」のベースとなる価値観を持っていて、旅行に対しても、本物の体験、値段に見合った価値、訪問地の環境への影響、訪問地域の文化や社会の発展への寄与を求めるという傾向が見受けられます。



商社としてのビジネスチャンスはどこに?


1つ目は、トレンドの1つである地方とこれから伸びる娯楽コンテンツを掛け合わせた、「地方×高付加価値旅行者向けコンテンツ」の旅行がビジネスチャンスとならないかと仮説を立てております。具体的には、「ヤド」(宿泊)、「アシ」(移動)、「ウリ」(娯楽コンテンツ)、「ヒト」(おもてなし)を高付加価値化させたビジネスにチャンスがあると考えています。例えば、環境・文化・経済のバランスに配慮したサステナブルなツーリズムや、地域の文化や自然を体験するアドベンチャーツーリズムなどが挙げられます。


政府は、地方における高付加価値旅行の取り組みということで、 全国14か所のエリアが指定されており、コンテンツ作りや「ヤド」・「アシ」・「ウリ」・「ヒト」をまとめた取り組みが現在進行中です。

 

2つ目に、コンテンツが重要といっても、やはり消費額の割合が最大である宿泊を攻めることが重要と考え、ラグジュアリーホテル運営ビジネスにチャンスが広がっていくと考えています。欧米圏の観光客の宿泊単価はアジア圏より高く、世帯収入も概して高いというデータがあり、ここをターゲットにして、少しラグジュアリーな価格帯のホテル進出がすでに展開されています。

現在の日本のホテル市場は中価格帯の宿泊特化型が多く、高価格帯のレジャー目的のフルサービス型のホテル市場には成長余地が大きいと言われており、少なくとも今後数年間、外資系オペレータの地方部進出が続きそうです。

 

3つ目は、クルーズ市場が考えられます。世界のクルーズ市場の拡大を受けて、訪日クルーズ市場の拡大が見込まれています。2023年の訪日クルーズ客数は新型コロナの影響もあり約36万人でしたが、2024年はどの程度増加しているか統計が待たれるところです。政府は来年に250万人との目標を掲げています。外国クルーズ船寄港回数も回復しており、特に瀬戸内海のアドベンチャークルーズ船や太平洋エリアの大型ラグジュアリー船の寄港が増えています。こうした市場拡大への期待もあり、クルーズ市場への異業種企業の投資が増えており、動向が注目されます。

 

4つ目は、食と文化・伝統・歴史・自然を掛け合わせるガストロノミーツーリズムが考えられます。地域独自の食材や産品、食文化にインバウンドが触れる機会を創出し、地方への誘客、ひいては地方経済の活性化を目指す取り組みが進められています。例えば、神奈川県三浦市で実施されている「特別な食体験・ゲリラレストラン」は、普段は何もない場所に豪華な飲食スペースを仕立て、シェフが三浦半島産の魚介や野菜を使って料理を提供します。価格は15万円ですが、その日にその場所でその顧客のためだけに振舞われる料理を堪能し、新たな食体験をしてもらうという取り組みです。

 

高付加価値旅行者だけにとどまらず、宿泊、飲食、移動、買い物、娯楽サービスの各要素を連携した囲い込みによるインバウンドサービス経済圏を創出できれば、地域広範囲型ビジネスへの展開が見込めるのではないかと考えています。




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