経済部 シニアエコノミスト
8月22日、第22回MIRAI LAB PALETTE×SCGR企画SC Kaleidoscope*が開催されました。SC Kaleidoscopeでは毎月MIRAI LAB PALETTEで時事テーマを議論し、会場では社内外の人と双方向で議論・交流を深めています。この回のテーマは「真夏の「世」の夢:政治経済の棚卸し」で、今夏の政治・経済情勢について本間経済部担当部長・チーフエコノミスト、浅野国際部長・シニアアナリストが楽しく語り合いました。
*MIRAI LAB PALETTE×SCGR企画 SC Kaleidoscope
住友商事グループのインハウス・シンクタンクである住友商事グローバルリサーチ(SCGR)がMIRAI LAB PALETTEと共同で毎月1回、旬の時事ニュース解説のライブ配信「SC Kaleidoscope」を実施している。SCGR所属のアナリスト、エコノミストらによる「最新時事解説」のプログラムとなっている。
「2023年は夏枯れだったのですが……」と、口火が切られたものの、2024年の夏には多くの出来事がありました。例えば、
米大統領選で、民主党候補がバイデン大統領からハリス副大統領へ交替
岸田首相、自民党総裁選不出馬表明
バングラデシュ、抗議デモから首相交替へ
フィリピンと中国、南シナ海を巡る緊張の高まり
タイ、首相免職から交替へ
ベトナム、書記長交替、国家主席も兼ねる
ウクライナのロシア領への越境攻撃
イランとイスラエルの緊張の高まり
イランと米国のコミュニケーションの状態に変化
中国とロシア、貿易決済が政治問題化
ベネズエラ、大統領選挙実施も、不正疑惑
習近平国家主席が表に出ない夏、ベトナム国家主席と会談
などが挙げられました。
それに続いて、調査の仕事は「完成図がないジグソーパズルづくり」であり、「点と点をつなげること」が重要だという言葉が印象的でした。「事前に点と点をつなぐことは難しいものの、それが楽しいところ」。楽しめることが重要です。
こうした指摘を受けて考えてみると、普段からアンテナを張り巡らせて、新しい情報を入手するとともに、それらがお互いにどのような関係にあり、どのような経路で全体に影響が波及していくのか、仮説を立てて、ロジックで組み立てていくこと、それが重要だと思いました。
上記の話題ですべてを語ることはできないものの、中でも注目されたのはウクライナのロシア越境侵攻・占領について。ロシアは非常事態宣言を出して、当該地域の住民を退避させ、軍隊を派遣して対応しています。ウクライナ側からは、緩衝地帯を作りたい、交渉上の交換地を確保したいという考えも伝わっていますが、落ち着きどころを探る上でカギになるのは、「米国がどう動くか」ということ。米国もこれまでは、武器提供はウクライナの防衛が理由だったものの、米国提供の武器でロシア本土の攻撃を許容するのか、が問われることになります。自衛権、独立維持のための支援や、自衛とは何かについて改めて考えさせられる出来事でもあります。
話は変わって、米国とイランはコミュニケーションが「とれている」点も話題になりました。前回、イランがイスラエルに報復した際も米国が歯止めをかけたといわれ、今回もイスラエルとハマスの停戦協議中という状況もあって、自制を促しています。外交では往々にして、多様なコミュニケーション・チャンネルを通じてメッセージが行き交うことがありますが、何らかの手段によって、米・イラン両国間で実質的にコミュニケーションがとれる状況にあるということが、今後の展開を考える上でもキーポイントになりそうです。
こうした地政学的なリスクや政治・経済情勢は、「事業環境につながる」と指摘がありましたが、政治・経済情勢と事業環境をつなぐ補助線の引き方が重要になります。例としてスエズ運河が挙げられました。中東情勢の緊迫化によりスエズ運河を通常利用できないことで、物流の時間やコストがかかるようになっています。それによって、「コスト高」になっている場合もあれば、他方で「収益増」になっている場合も見受けられます。イスラエル・ハマス間での停戦合意となれば、そうした前提が変わるため、財・サービスの需給バランス、事業環境も変わっていくということも想定しておくことが重要です。
米国の経済を考える上で、経済指標のヘッドラインと実際の肌感覚の相違が拡大している点にも話が及びました。市場が二極化しつつあるのではないか、とも。コストコで金の延べ棒が買われたり、米マクドナルドの5ドルセットが好評で販売期間が当初予定から延長されたりと、大衆の消費力の見え方が経済指標のヘッドラインと異なっているように見える、という話に展開されました。
景気動向を見極める上では、大衆の消費がどのように推移するのかがポイントになるため、こうした視点も欠かせません。こうした中で発表されたハリス副大統領の経済政策には、「便乗値上げ禁止」、「食品や住宅価格の抑制」が盛り込まれており、米国の現在を語る上で、「物価・消費」が重要な要素となっていると言えます。
また、こうした経済政策が、必ずしも経済成長を志向したものではない点も注目されます。成長とは別の話、例えば、分配に力点が置かれており、企業として成長していく上での外部環境がどのように変化がしていくのかも、今後の注目点として挙げていくことが求められます。
「戒名がない?」……つまり、8月に発生した史上最大幅の株価下落という現象に、名称がまだつけられていない点もトピックの1つになりました。日経平均株価はブラックマンデー以上の大幅下落を記録しました。史上最大の下落であったにもかかわらず、「〇〇ショック」という名前が付けられていない。足元ですでに落ち着いたのか、まだ小康状態にあるのか判断しがたいため、今後も注視していくことが必要だ、と言及されました。
体温を超える猛暑でこの身は枯れそうな中でも、世界情勢は大きく動きました。そんな世界情勢を巡って、話題は尽きることはありません。現状の政治・経済、地政学的な出来事は、最終的に事業環境の変化につながります。それを上手くつなげる補助線をどのように引いていくのか、完成図のないジグソーパズルをどのように組み立てて戦略を練っていくのか、そういうことを改めて考えさせられたセミナーでした。
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