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【#7】経済部チーフエコノミストの「市場外観」レポートを、アフリカのアナリストが別視点で解説!


経済部 シニアアナリスト
遠景にナイロビの市街のビル群が見え、手前に草原の中を悠々と歩くサイが3頭いる。
ケニア・ナイロビ国立公園(2022年筆者撮影)

当社経済部、本間チーフエコノミストによるレポート「市場概観:景気減速と政策不透明感」では、冒頭で国際通貨基金(IMF)が7月に公表した「世界経済見通し」の改訂版に触れ、それに続き世界二大大国である①中国、②米国の政治経済のアップデート、③コモディティの動向の3本柱にテーマを区切って、それぞれの内容をコンパクトに解説しています。

3分ほどでさっと読める内容になっておりますので、是非ご覧いただければと思いますが、今回は「サブサハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南の国々、以降サブサハラ)」のリサーチを担当するが同レポートをどのような視点で読むのか、簡単にご紹介したいと思います。


<IMF世界経済見通し7月版>

まず、サブサハラはIMFの定義によると45か国あります。しかし、国数は多いものの、サブサハラの経済規模(購買力平価GDP、2023年)が世界に占める割合は、45か国すべてを足し合わせても世界の3.1%に過ぎません。そのように経済規模が大きくないサブサハラではありますが、その中でも1,2の経済規模を争う、産油国のナイジェリア(世界シェア0.8%)と、非産油国の南アフリカ(同0.6%)の2か国のみが1月と7月のIMFの経済見通し改訂版では取り上げられます。同レポート掲載の表の通り、今回の改訂版ではナイジェリアの2024年の成長率予測が0.2%ポイント下方修正された影響が大きく響き、サブサハラ全体の成長も0.1%ポイント引き下げられました。サブサハラに関しては世界経済全体に与える影響も限定的なため、それゆえに大きくは取り上げられませんが、私は定点観測的にIMFの経済見通しを活用しています。


<中国>

次に同レポートでは中国の内需の弱さ、中国の貿易パートナーの変化について解説しています。経済大国・中国の景気動向はサブサハラの経済動向にも大きな影響を及ぼします。その理由は、2000年代初め以降、「世界の工場」として急成長を遂げた中国の資源需要を満たしてきた地域の一つが紛れもなくサブサハラだからです。米ボストン大学が4月に発表したレポートによると、中国とアフリカ(北アフリカも含む)との間の貿易額(輸出入)は2007年の約117億ドルから、2022年には約22倍となる2,577億ドルに拡大しました。中国はアフリカにとって輸出入ともに世界シェアの2割を占める最大の貿易相手国です。特にアフリカからの中国向け輸出(2022年)の約4割が原油(アンゴラ、ナイジェリア等)、15%が精製銅(コンゴ民主共和国、ザンビア等)と中国の経済成長に欠かせない資源を供給しています。資源輸出に依存するモノカルチャーの国が多いサブサハラ経済は、中国の景気動向に大きく左右されることから私は注目をしています。

 

<米国>

中国に続いてレポートでは米国の政経動向を紹介しています。私のようなサブサハラのアナリストにとって、最大の貿易相手国である中国と同様に、世界最大の経済大国、米国の政経動向も見逃せない点です。サブサハラはもともと旧宗主国である欧州との関係が深く、近年では中国やインド、ロシア等との関係を強化している国も多いものの、国際協力・援助を中心に米国の存在感・影響力は依然として強大です。なかでも民主党政権が2000年に発効した「アフリカ成長機会法(AGOA)」は米国の対サブサハラの最大の経済政策となっています。現在32のサブサハラ諸国がAGOAの認定を受けており、米国への輸出にあたり約6,800品目が無税となるこのAGOAのスキームを活用して、原油や縫製品、農産物等の産品の巨大米国市場へのアクセスを可能にしています。現民主党政権は2025年に失効を迎えるAGOAの延長に意欲的であり、現在延長法案は上院議会での審議を待っているところですが、10月の大統領選の結果がAGOAに与える影響がサブサハラにとって最大の関心事と言えます。

 

<コモディティ>

レポートの最後のコモディティの部分では、米中での電気自動車の推進の方向性からエネルギーと金属の値動きの見通しを占っています。中国のエネルギー、特に原油・天然ガスの需要の点では、中国はアンゴラやナイジェリアのほかにもニジェールからの原油の新規調達を進めたり、モザンビークの天然ガスプロジェクトにも参画したりしているため、エネルギー需給の動向はこれらサブサハラの国々の経済にも大きな影響をもたらします。また、電気自動車のバッテリーの原料として必要となるコバルトや、マンガン、ニッケルなどのレアメタルを求めて、中国は周辺インフラ整備を伴いながらコンゴ民主共和国(DRC)やザンビアといった国々で引き続き開発を進めています。また、米国でも電気自動車推進の動向は、大統領選の結果によっても変更しうる状況ですが、これまで中国からの輸入に依存していた一部の重要資源鉱物の獲得に向けて、米国も戦略的にアンゴラや、DRC、ザンビアといったサブサハラの国々へのアプローチを強めています。一見、直接関係がない内容に思える米中のエネルギー・電気自動車の動向、コモディティの動きは、サブサハラの経済にも直接・間接的に影響をもたらしうるのです。

 

このように、たとえ日々溢れる情報の中にサブサハラ・アフリカの「サ」や「アフ」の字が見当たらなくとも、その情報の中からサブサハラへの影響を自分なりに読み解いていく。それが私の日常です。

 

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筆者:本間 隆行

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