top of page
執筆者の写真SCGR運営事務局

20周年記念セミナー開催後報告


20周年記念セミナー

設立20周年記念セミナーチーム




10月18日セミナー「住友商事グローバルリサーチ(SCGR)設立20周年記念イベント:複雑化する世界での視点と発想」を大手町プレイスで開催しました。SCGRに所属するエコノミストとアナリストがパネリストとして登壇し、本間隆行(経済担当部長・チーフエコノミスト)がモデレーターを務めました。セミナーでは登壇者がそれぞれの専門領域から、過去20年間を振り返った上で、今後の見通しについて考察する際に特に重視しているポイントや、日頃の情報収集の方法など、さまざまなトピックを取り上げました(後述の発言概要一覧参照)。


登壇者それぞれの専門が異なりますから、具体的な手法や注目点などは多岐に渡りましたが、一つ共通していたのは、「既成概念に囚われてはいけない」ということだったと思います。例えば、人口や市場規模の大きさが必ずしもメリットとはならないこと、少子高齢化・循環型経済においては経済成長の形も変化すること、過去のデータも視点を変えれば、まったく通説とは異なる状況が見えてくることなどが指摘されました。


また、長期的な視点を持つことで、情報分析にも客観性や広がりを持たせることができるという指摘も、多くの登壇者の考察に共通していたように思います。SCGRでは、アナリストもエコノミストも日々の情報を追いかけ、その日の注目ニュースを毎営業日紹介するミーティングを設けています。日々の情報分析には需要もあり、それはもちろん大切でもあるのですが、複雑化する世界の中で、長期的な視野を持つことが、情報に対する受け手のリテラシーを強化し、客観的な分析を行うのに役立つということが説明されました。


情報収集の方法については、それぞれが見ている媒体やソースは異なるものの、情報を発信している人が、どのような立場・思惑から、その情報を発信しているのかを認識しておくことが重要だという点が共通していたかと思います。


セミナーの最後に、聴衆の皆さまから質疑応答を受け、イベントは盛会のうちに終了しました。普段は、チームで働くというより、一匹狼スタイルで仕事をすることが多いエコノミストとアナリストですが、専門が異なる人々が協同することで得られる新しい気付きがあるということを改めて実感し、時にはチームで働くことも重要だと感じました。これからも、協働を通じてSCGRのさらなる成長と発展を目指していきたいと思います。



登壇者の発言概要(発言順)



●     鈴木直美 <経済部マーケットチーム長・シニアアナリスト>


SCGR設立からの20年で、世界人口は65億人から80億人超と25%増え、世界の名目GDPは2.5倍となった。国別GDPランキングは新興国台頭と為替の影響もあり順位が入れ替わった。他方、国内外で歴然とした格差は残る。63の国・地域では人口が減少し、移民の数は増加。V-DEM分類では民主主義国に住む人の割合が1980年代の水準に後退した。そうした世界の変化の中で、数々の新たな課題も生まれた。


資源については、2000年代には人口増と経済成長による需要拡大に伴い値上がりしたが、2010年代はシェール革命や新規供給で価格は下落した。2020年代は脱炭素化がコロナ禍後の経済再生の軸とされたものの、戦争・分断・高インフレ・AI革命を経て、持続可能なエネルギーの在り方が改めて課題となっている。


金は以前の常識を覆し、高金利下でも高値更新を継続している。ドルと金を切り離したのがニクソンショックなら、ドルと資源国ロシアを切り離したのもパラダイムチェンジの起点になるのだろうか。統計やニュースに「ミリ秒」単位で反応する超高速取引の拡大などにより相場は変質したが、トレンドが突如大きく変わる場面も散見され、短期のトレンドと本質を見極める必要性が一段と高まっている。



関連コラム:



●     鈴木将之 <経済部シニアエコノミスト>


日本経済の20年を振り返ると、失われた30年のおおむね後半にあたる。この間の課題と言えば、①伸び悩む成長、②減少する人口、③上昇しない物価(デフレ)の3点が挙げられる。2010年代後半に「デフレではない状況」になり、足元までの物価上昇を踏まえれば、デフレ脱却に近づいていると言える。他方、人口減少と低成長は課題として残っている。


こうした中で、「人口が減少しているから日本経済は成長しない」というシンプルな考えが広がってきた。しかし、短期的な需要面、長期的な供給面から考えると、人口と経済成長の関係は遠く、その間には考えるべき要因が多くある。


足元の名目GDPは、おおむね人口規模が同じだった1991年に比べて120兆円弱増加している。国内生産額に占める付加価値の割合は50%程度なので、同期間に国内生産額は240兆円弱増加した計算だ。この国内市場の拡大を取りこぼしたのならば、もったいない。セミナーのサブタイトル「複雑化する世界での視点と発想」のように、視点と発想を見直して考えることが重要だ。



関連コラム:



●     前田宏子<国際部シニアアナリスト(中国・台湾・モンゴル・朝鮮半島)>


過去20年間で中国は目覚ましい経済発展を遂げ、それに伴い、中国政府の行動様式は変化し、外部の中国に対する見方も変わってきた。20年前はまだ、他国との大きな対立や摩擦を避ける“韜光養晦(とうこうようかい)”方針を維持すべきという意見が主流であった。しかし、急激な発展を遂げる中、胡錦涛政権後期から「経済利益を多少犠牲にしても、安全保障上の利益を守るべき」という声が大きくなった。

 

習近平政権は、「中国は世界舞台の中心に立つ」として、国際レジームを自国により有利な形に変えるため主動的に活動している。西側諸国の間では中国への警戒も登場したが、その中には「民主主義より、もしかして中国のシステムのほうが優れているのではないか」という、ある種の恐怖感も含まれていたと思う。しかし、中国のゼロコロナ政策の継続や突然の停止、昨今の経済低迷に対する対応などは、そのような恐怖感を弱め、権力を集中させることのデメリットを再認識させた。


中国も高度成長時代を終え、今後は経済成長の減速や少子高齢化という問題に対応しなければならない。柔軟性が乏しい今の体制で、それらの課題にうまく対応できるのかについては不安が残る。



関連コラム:



●     石井順也 <国際部シニアアナリスト(東南アジア・南アジア・大洋州)>


20年前の東南アジアは、アジア通貨危機で受けた傷を克服し、力強い経済回復を見せつつある時期だった。その後、東南アジアの国々は飛躍的な発展を遂げるが、それはグローバル化の波に乗ったことが大きい。ASEANという枠組みを通じて域内の経済統合を実現し、日本や中国をはじめとする域外国とも自由貿易協定を結び、東アジアの経済圏の形成に貢献しながら、外資を呼び込み、中国の急成長を追い風として、その経済規模は20年間で約4倍となった。


一方、20年前のインドは、経済的にも政治的にも存在感は薄かったが、10年ほど前から、多くの国家や企業から高い期待を寄せられるようになった。今や「インドの時代」「モテ期」といわれるほどの活況を呈している。その背景には、モディ政権の改革やインドのポテンシャルへの評価もあるが、米中対立をはじめとする地政学リスクがかつてなく重視される時代になったことも大きい。


このように東南アジアはグローバル化、インドは地政学という時代の潮流をそれぞれ追い風として、新興国の雄として台頭した。今後の発展の展望においても、国際環境の方向性は重要な鍵を握るだろう。



関連コラム:



●     髙橋史 <経済部シニアアナリスト(サブサハラ・アフリカ)>


サブサハラ・アフリカ(以下、サブサハラ)の20年は、「中国との20年」と言える。2000年以降、資源価格の上昇に沿って緩やかに成長を遂げたサブサハラ経済を支えたのは、紛れもなく中国の旺盛な資源需要だ。


しかし、2014年頃に始まった資源価格の低迷が転機となり、サブサハラの経済成長は鈍化し、中国からの融資も2016年をピークに大きく減少に転じた。さらに2020年以降は、コロナ禍やウクライナ紛争などの外的ショックが経済に大打撃を与えたところに、対中国債務が重しとなり、各国でデフォルトが相次いで起こった。経済はいまだ回復の途上にある。域内全体の経済成長率は+3%台で新興国平均を下回る。


サブサハラの今後を占う上で重要な点は、長期にわたる人口増加である。2024年の12億人から2100年には33億人になると予測されている。「成長なき」人口増は世界の不安定化の要因となり得るが、消費市場の拡大とインフラ需要はビジネスチャンスにもなるだろう。



関連記事:



●     広瀬真司 <国際部シニアアナリスト(中東・北アフリカ)>


20年前の中東といえば、2003年の米国主導連合軍によるイラク侵攻があった。以降、イラクの治安は悪化し宗派抗争が激化した。イラクはその前の20年も含め過去40年間、戦争や制裁、テロに苛まれ続けてきた。


2010年に始まった「アラブの春」では、アラブ諸国で発生したデモによって権威主義的なリーダーたちが次々に追放された。その後、中東の中心的存在になった湾岸諸国は、経済発展のために地域の安定が必要との認識に至り、近隣諸国との関係改善に舵を切った。


イスラエルとアラブ諸国の国交正常化も進んだが、取り残されそうになったパレスチナのハマスがイスラエルへの越境攻撃を実施。その後1年以上にわたってイスラエルはガザを攻撃し続け、4万3,000人以上のパレスチナ人が犠牲になった。情勢を理解するためには、今起こっている事だけを見ていては本質が見えないので、過去の経緯を理解する必要がある。今後の中東情勢は、パレスチナ問題とイラン・イスラエルの対立に注目が必要であろう。

 


関連コラム:



●     浅野貴昭 <国際部長・シニアアナリスト(北米・中南米・通商問題)>


現在、米国は大統領選の最終段階を迎えている。多くの州で期日前投票も既に始まり、1年以上をかけて展開されてきた大統領選も11月5日で一段落する見込みだ。この20年間で大統領選は5回実施された。


選挙戦の勝敗は、その時の候補者の組み合わせや、政治・経済環境に左右されるわけだが、都度、注目されるのが激戦州、接戦州と呼ばれる州の存在だ。過去5回を振り返ってみても、激戦州は決して固定しているわけではないが、2024年の選挙で注目されているウィスコンシン州、ミシガン州、ペンシルバニア州などは、2016年、2020年以来、接戦州であり続け、現在はハリス、トランプ両候補による労働組合票の取り合いの場となっている。


こうした地図上の色の塗り替わりは、二大政党の支持基盤が時間をかけて変容しつつある様子を表現しているのかもしれず、目前の勝ち負けの裏にある変化を見落とすことの無いように、複数の角度から観測を続けたい。



関連コラム:





bottom of page